今月のBOOK

(2004年5月号)






泳ぐのに、安全でも 適切でもありません
江國 香織
集英社

2002年


なにやら意味ありげなタイトル。
アメリカ旅行中に実際に見た立て札から、インスピレーションを受けたというので、
おそらくは、遊泳禁止の河川かどこかで見たのだろう。
英文で言うと「It's not safe or suitable for swim」になる。
「suitable」を「適切」と訳しているところが、ちょっと気になったけど、
それだけテーマの内容が深いのだろうと期待しながら読んだ。

正確には、この本は小説ではなく、10の短編からなる作品。
最初は、ざっと流し読みしてみる。
愛にだけはためらわなかった女達のいろんな生活、いろんな人生を描きたい?
フムフム、いろんなねえ〜。
作品に出てくる主人公って、どれもみんな、結構ナルシストっていうか、自意識過剰?
「あなた、こんな経験したことないでしょう?」っていうメッセージしか受け取れないんですけど・・・。
あっ、2004年の直木賞受賞作家に、こんな毒づき方しちゃあ、いけません。

2回目。今度はちょっと気合をいれて熟読。
ムムッ。もしかして、なかなか良いかも。
嫌いな作品もあるけど、「うしなう」っていう短編は、私のアンテナがピピッと反応したぞ。

彼女の名前は、私が毎月買っている月刊誌で知った。
往復書簡の特集で、この人と、この人の妹さんがやりとりしている手紙がそのまま載っている。
直筆で書かれた「素」の文章も、作品の雰囲気と似通っていて、おもしろい。
外国絵本の翻訳とかも手がけているようだけど、ゴフスタインの絵本が好きらしいことを知って、ちょっと親近感を持った。
わたしも、ゴフスタインの絵本は好きなのだ。シンプルな線画なんだけど、とてもいい。
それに、お肉も好きらしい。
そういえば、この人の作品の中には、食べたり、お酒を飲んだりするシーンがたくさん出てくる。
白ワインに、あさりスパゲティ、オニオンリング。
オニオングラタンスープにシェリー酒。
ココナッツクリームのケーキに、エスプレッソ。
ウウッ、ゴクッ。「食」の好みもいっしょ。
そういう部分の描写は、とてもうまいと思うので、
きっと、自分でお料理したりするのも好きなんじゃないのかなあ。
ということで、急きょ「敬遠派」から「親近派」へ心変わりした。
食う寝るが好きな人に、悪い人はいない。(^^)

ちなみに、私の場合、人生とは「It's safe and suitable for floating」であって欲しいのだが・・。
やっぱ、ダメでしょうか?ダメでしょうねえ〜。ハハッ。